このお話は「神職怪談」という本に書かれていた怖い話です。
神主や巫女などが実際に体験した神社にまつわる怪異譚です。
お寺のイメージなら昔の怪談のように、墓石と関東なら卒塔婆
暗闇でうかびあがる青白い人魂・・あまり行きたくない感じですね・・
神社といえば「初詣」「にぎわう人出」「おみくじ」「観光スポット」というイメージですね。
そういう神社ですが、そこで働く人々から聞いた物語です。。
松川さん~当時30代の女性の話
今からちょうど十年前の話、当時30代の松川さんは、東京都で生まれ育った。
両親の仕事の都合で引っ越しが多く、ひどい時は小学校の入学式から一週間で越したため、二度入学式を経験するというめずらしい体験もあった。
大学を卒業してからは都内で一人暮らし
普通のOLとして平凡な生活をしていました。
自分は特別、人と違うことはないと思っていました。
しかし彼女にはひとつだけ珍しい習慣がありました。
多くの人は明治神宮・伏見稲荷神社・鶴岡八幡宮・住吉神社・熱田神宮などに、初もうでに行くだろうが
だが彼女は「縁切り神社」に行くのです。
理由を聞かれると「いつもお世話になっているから」と答えていました
それが初めて起きたのは、彼女が中学生のときだった
中学生に入学してすぐ、小学生から続けていたバトミントン部に入りました。一年は厳しい先生や優しい先輩と一緒に部活を楽しんでいました。
だが、二年生になった時少ないレギュラーの座を勝ち取ると、やっかみから、いじめが始まりました。
靴や着替えを隠されるのは序の口。
シューズがカッターナイフで切りつけられて、ボロボロにされていたことがある。
大切にしていたラケットが折られていた時は、さすがに涙を流しました。
顧問や親に相談したが、体育会系の部活ではよくあること。
そのうちやむから気にするなと、真剣に取り合ってもらえず、悩みと心配で寝られない日々が続いた。
そんな時、駅前の書店で一冊の雑誌をみつけた
それは東京の観光情報を特集しているムック本。
その中で紹介されていたパワースポットが「縁切り神社」でした。
悪縁を切りたい人が訪れる。
恋愛や人間関係、仕事のトラブル、ギャンブル癖、死を待つしかない大病、自分の力ではどうにもならない悪い縁を断ち切ってくれるのが、こうした神社だ。
記事をひととおり読み終えた松川さんは、自然と自宅から最も近い縁切り神社にむかっていました。
そこは小学生の時写生会で訪れたことがあるような、親しみが持てるたたずまいの神社でした。
赤くぬられた鳥居をくぐり、参道を進んでいきます。手水舎があり、さらさらと流れる水の音がここちよい・・・
本堂につき
「いじめをする人と縁を切りたいです」「他人の嫉妬から逃れたいです」
合掌し、ひたすら神に祈りました・・・・
それから一週間後のことだった
同期のふたりが松川さんのジャージにカッターの刃を入れているところを、顧問とはべつの教師にみつかり大問題になりました。
その二人は自分がレギュラーになれなかった悔しさから、いじめをしたことを白状したのだ。
翌日の放課後には相手方のご両親が謝罪に自宅まで来たのです。
一緒に来た同期ふたりは、ぐしゃぐしゃに泣いていた。
翌週の月曜日には前校朝礼で校長先生から、今回のことについて話があり、校内は一時その話題でもちきりになりました。名や部は伏せてありました。
それ以降いじめはパタリとなくなった!
縁切り神社は願いをかなえてくれた!!
彼女はすぐにお礼参りをし、何度もこころのなかでお礼を言い、月のおこづかいを全額を賽銭箱にいれました。
二度目は大学生のときだった。
1人暮らしを始めた松川さんの大学生活が順調だったのは、二年生の夏ごろまででした。
ストーカー被害にあったのだ
アルバイト先のファミレスで接客した初老の男性。
気がつけば店の常連になっていて、彼女が担当する席にかならず座っていました。
邪険にあつかうこともできないので、愛想笑いでやり過ごしていたのだが
ある日手紙をもらった・・
「ひとめぼれ」だの「結婚を視野に」だの成人式を過ぎたばかりの彼女には、とうてい考えられない文句が並べられていた。。。
当然ことわりの手紙をだしました。
彼は素直に引き下がったかと思われたが
しかし、その日彼女の仕事が終わると同時に、ストーカー行為がはじまったのです
どう調べたのか何度もかかってくる電話、つねに後をつけられている気配、自宅前での待ちぶせ。
親や店長や、警察にも相談したが真剣にきいてもらえなった。
そこで彼女はまいとし初詣訪れている縁切り神社におねがいにいきました。
中学生のように賽銭を入れ、一心不乱に縁切りを願った。。。だが、それでもストーカー行為がやむことはなかった。
それどころか焦れた相手は行動がだいたんになってきた。
バイトから帰ると部屋が荒らされていて、彼女の下着が盗まれていることもあった。
たまりかねた彼女は大学のキャンバスから、もっとも近い縁切り神社にも参拝してみることにしました。
そこはとても小さな神社でした・・・
十字路の陰にひっそりとたたずむ神社は、商店街のはずれにあり気づかずにとおりすぎてしまうくらいでした。
通りから敷地に数歩はいり、朱色の鳥居をくぐれば、すぐに突き当りの小さな社の前に出る。
風に揺られて絵馬がジャラジャラと音を立てている。縁を切りたいと願う人のつよい念が伝わってくるようで不気味だ
賽銭を入れて、まわりの騒音も入らないくらい、集中して祈り続けました。
「ストーカーと縁を切りたいです!あの人との縁をなくしてください」
一心不乱に口の中で願いをなんどもつぶやいた。
三階にある松川さんの部屋に忍び込もうとしてストーカーは警察官に怒鳴られ、べランドから逃げようとして落下し、複雑骨折で入院したと聞かされたのは、それから三日後のことでした。。。
三度目は社会人になったばかりの時だった
就職氷河期のなか、大学を卒業してやっとのことで就職したのは、中小企業の総務部だった。残業はほとんどない。
他部署の依頼で備品の発注や、オフィスの管理、社内規定の作成や更新、株主総会の運営といったことをするのだが、どれも就業時間内には終わる仕事でした。
同期よりも顔が広くなる。
様々な書類処理するため印鑑をもらいにいくことがあれば、人事課長に文房具を届けることがある。
受け口窓口から社長室まで顔をだすのだ。
松川さんは入社してすぐに社内恋愛をはじめたが、それは不倫だった。。。
最初のうちは会社のことでもあるし、、やんわり断っていました。落としやすいと思われているのだろう。
恋愛経験がないので、のちのち面倒になってくることは、わかっていました。
しかし、その夏、定年退職した同僚の送別会の帰り、酔いも手伝って深い中になってしまったのだ。
それから、ずるずると密会を楽しむようになりました。
だけれども、社内不倫というのは、周りの人にバレるのもはやいもの
相手の奥さんの代理人という人から連絡が入ったのは真冬のことでした。
慰謝料の請求、従わない場合は民事的措置をとること。
そして退職をせまられた。
冗談ではない!そもそも言い寄ってきたのは向こうだ。
それに社会人1年目のOLに百万円単位の慰謝料を払えというのは、嫌がらせもはなはだしい。
退職だって、この就職氷河期で次が見つかるはずがない。とはいえ世間的に、非があるのは自分だという事を理解していた松川さんは
どうにか、このトラブルから縁を切りたい!
松川さんは神頼みにはしった。
当時住んでいたマンションの近く、普通の神社として地元では愛されていて、年末年始の参拝客はかなり多いところでした。
彼女は夜が明けつつある早朝に、その神社を訪れました。
石畳の上を小走りで進み、鳥居をくぐる直前に周りをうかがうと誰もいない。
社の前に来ると自分の財布の中の小銭をすべて賽銭箱に流し入れました。
「不倫の縁を切りたいです。」
「相手もその奥さんとも、かかわりたくありません。」
今までだって縁を切ってくれたので、今回だってきっと・・
それでも不安だったので彼女は毎朝、神に縁切りをねがいました。
何日目かの参拝の時でした。
いつものように賽銭箱に小銭を流し込み、腕に力を入れて合掌をしていると、背後で大きな音がしました!
金属と金属がぶつかる耳障りな音だった!
振り向くと鳥居の向こうで、一台の車がさかさまになっているの見えました。
なにかと衝突でもしたのか、ボンネットが大きくひしゃげていて、事故の大きさをものがたっていました。
周囲にはサイドミラーがちぎれ飛んでいて、フロントガラスが粉々になって道路に散乱しています。
「ああ、きっと手遅れだろう・・・ん?」
そこで気がついたのは、この車・・知ってる車だった!
それは、松川さんがなんども乗ったことがある不倫相手の車でした。
あわてて駆け寄るが、運転席の男はすでにこと切れていて、助手席の女はどこで切ったのか首から多数の血がでていました。
さらに、地面にはこの車と別の何かがこすった跡がありました。
それを目で追うと、もう一台の車が横転していて、こちらも同様の惨状でした。・・・もう手遅れだろうと、ぼんやり見ていたら上向きになったドアから初老の男が、ゆっくりと車からはい出そうとしていた。
それは彼女にストーカー行為をしていた男性だった!?
そのタイミングで、松川さんは腰が抜けて座り込んでしまった。
誰かが通報したのか?しばらくしてサイレンの音が遠くから、近づいてくるのがわかったが、彼女はふるえて、何もできなかったそうです。
到着した救急隊員や警察に目撃者としてあつかわれたが、松川さんは事後の第一発見者にすぎず、それがわかると、すぐに解放されました。
社員が亡くなったという事で当然、このことは社内ですぐ噂になった。
自分は全然関係ない事故なのに、なぜか松川さんが引き起こしたことになっていました。
そのことで会社のそこかしこで、陰でこそこそと後ろ指をさされた。。。
それがなによりも、つらかったが、これも不倫をした罰だ。死ぬよりもずっとましだと自戒して日々の業務をつづけたのでした。
見事、あの二人からは縁が切れました。
ただ、彼女も予想できなかったのは、このことを重くとらえた会社から、自分都合による退職を迫られたことだ。
仕事の縁もきれてしまうとは。
彼女は現在、実家で家事手伝いをしている。