一見するとよさそうな施設でした~評判がよくない老人ホームに潜入取材
少子高齢化のこの時代、介護ビジネスで、儲けようとする人がいます。
ノンフィクションライターの甚野博則さんは「老人は歩くダイヤモンド」と呼ぶ業者までいたという。
甚野さん自身の母親の介護をきっかけに、制度について一から調べ、全国の全国の現場を歩いて知った「実録ルポ・介護の裏」にまとめている。
ここでは本書より一部を抜粋。
疎遠だった叔父の死を取り巻く状況に疑問を抱いた。ある女性のケースを紹介する。
身元保証ビジネスの謎
叔父の死後、不可解なできごとが起きています。
編集部に1通のメールが届いた。
生前の叔父は中部地方の老人ホームに夫婦で暮らしていたが、妻に先立たれた。
叔父には2人の兄弟がいるが、高齢という事もあり疎遠になってきた。
身寄りのない叔父は2022年7月に賃貸マンションで息を引き取った。
篠田さんが叔父の死を知ることになるのは、それから半年がたったころ
裁判所から一通の封書が届いたことがきっかけでした。封書の中には「遺言書検認期日通知書」と書かれた紙が入っており、叔父の遺言書の検認手続きをしてほしいとかかれていました。
篠田さんは「叔父の相続人という立場だ。
ところが裁判所からの資料には「大崎郁子」という、聞いたことのない女性の名前が、遺言書検認の申立人として書かれていた。
叔父が遺言書で指定した相手のことだと、篠田さんはすぐにピンときた。
この大崎郁子とはいったい誰なのか?叔父はどういう経緯で亡くなったのか?
なぜは叔父は死後、姪である自分に連絡がなく今になって裁判所から連絡がきたのか?
様々な疑問が一気に押し寄せ、理解が追い付かなかったという・・・
篠田さんが疑問に思ったことは他にもある。
なぜ叔父は自宅があるにもかかわらず、老人ホームをでて、賃貸マンションで一人暮らしをしていたのか?
誰が叔父のの葬儀をして、火葬をすませたのだろうか?遺骨はどこに埋葬されたのだろうか?叔父の自宅や賃貸マンションの荷物は誰が整理したのか?
そして最も不可解だったのは、なぜ叔父が大崎郁子に財産を渡すという遺言書をかいたのだろうか?
そもそも、遺言書は叔父が書いたのだろうか?
遺産を抜け取る女性はいったい誰なのか?
遺言書の検認手続きの日に、裁判所に行くことができなかったために、代わりにほかの親族に出てもらうように頼んだという。
遺産を受け取る側の大崎郁子も、裁判所には来ず弁護士がきた。そこで、大崎郁子が叔父の身の回りをしていたヘルパーだったことを知りました。
篠田さんは叔父の数々の疑問に対して説明をもとめたが、弁護士からの答えはあいまいなものでした。
大崎郁子の連絡先も、叔父の遺骨がどこにあるのかも教えてもらえませんでした。
苛立った彼女は、ケアマネ・ソーシャルワーカー・福祉事務所などに連絡し自分で調べることにしました。。。
そして生前の叔父を生活面でサポートしたというNPO法人の名前を突き止めた。
大谷郁子はここの職員だった。
同法人の主な業務は「身元保証」親族に代わって、老人ホームや賃貸物件の保証人になったりするサービスだ。
ホームページでは提携弁護士が利用者のサポートするとうたわれている。その他にも葬儀支援、生活支援、遺品整理なども行われています。
篠田さんの中で、ある疑惑が深まっていました・・・
調べれば調べるほど、篠田さんの中で、ある疑惑が深まっていきました。
弁護士もNPO法人も、大崎も寺も、みんなグルなのかもしれない・・・
弁護士が約束した期日が過ぎても、遺言書は送られてこなかった。。。
警察署に相談に行くと担当刑事は「その話が本当なら、詐欺事件の可能性もありますよ。」と話しました。
後日刑事が弁護士に確認をすると、「これから準備して送ります」と回答があったそうです。
「叔父が埋葬されていたのは、中部地方にあるお寺でした。叔父は自分が死んだら、北陸地方の実家近くの菩提寺の墓に入れてほしいと言っていたので、なんでこういう風になったのか不思議です。
月に140万円もの請求があった。。。
篠田さんが独自に手に入れた複数の資料を見ると、不可解な点がいくつもある。
例えばおじが亡くなった月の請求書は「葬儀代22万円」とともに葬儀会社もしるされていました。「永久供養代50万円」という記載がある。
そして請求書から、叔父の家にNPO法人がヘルパーを1名派遣し、生活支援をしていたことがわかりました。
生活支援をたどっていくと、2022年7月の請求額は約110万円になっていました。
それだけではなく居宅介護支援の介護サービスを利用していたらしく月額30万にものぼっていました。多い時の介護費用は140万にもなったことになる。
それらの費用は叔父の死後、死んだはずの叔父が入金したことになっていました。
NPO法人の近くのATMを特定できたが、いったい誰が入金を行ったのだろう。。。
大崎の弁護士からは後で遺言書が送られてきたが、そこにはこう書いてありました。
「大崎郁子にに対して、遺言者が所有するすべての遺産を所有する」
遺言書の日付は2021年12月17日、叔父が亡くなる約7か月前だ。
篠田さんは弁護士さんに聞いた。「普通赤の他人に財産を寄贈するという遺言書を作成させますか?」
というと弁護士はこのNPO法人は入居者たちに、遺言書を作成させて、葬儀などをしていますよと言う。
―死亡後の後始末にかかる費用があるなら、大崎郁子に全財産を遺贈するという遺言書を作成しなくてもいいのでは?
その答えは回答はえられませんでした。
なぜ、NPO法人として身の回りの世話をしていたはずなのに、なぜ遺産を大崎個人が受け取るのか?
納得できないところを説明してもらいたいと手紙を書いたところ・・・
手紙を書いたところ、大崎郁子は「相続を放棄する!」と言ってきた。
弁護士からも経緯を書いた手紙をいただいたが、細かなことはわからず、真相はわからないままでした。
私が騒いだために「これはまずい」と思ったのか、大崎は相続を放棄することになりましたが、
この人たちは叔父のほかにも同じような手口で遺産を得ているのかもしれないと、思ったのです。
この後、弁護士を通じて送られた手紙には・・
ご親族との連絡が困難なため、連絡不可能と判断した次第です。
ご本人には親族には頼れない。施設などに迷惑をかけたくないという理由で、遺言書作成のご希望がありました。
当方としては遺言書は向こうとは思いませんが、ご相続人様の移行に反して、手続きをすすめるつもりは、ありません。
大崎については家庭裁判所に相続放棄をする予定です。
NPO法人、ヘルパー、片付け業者、葬儀屋、寺、弁護士などが提携し、死が近い高齢者に群がって儲けようとしたのではないかと今でも疑っているそうだ。
甚野博則・文春新書より